2006年10月02日

ある スコール 

沖縄の雨は突然降り出し、そしてあっけなく止む。

土曜の夜を、観覧車のある街で過ごしていた。

ネオンが夜闇に浮かぶ映画館を後にし、ビーチに面した、テラスのあるカフェに入った。秋の、ひんやりした静かな海からそよぐ風が、心地いい夜だった。炭酸の入った飲み物で乾杯し、はしゃぎながら今夜の映画について語り合った。


いい夜になるはず、だった。


映画談義をひとしきり終えて、海を見ながら一息ついていると、おなかがぐぅと鳴った。そういえば、注文してからだいぶ経つのに、食事がまだ来ていない。会話も漫ろに、厨房の様子を伺ったりしながら、まだか、まだかと待ち詫びている

と、

突然 ひゅん。と海から旋風が来たと思った瞬間、空が猛烈な勢いで泣き始めた。

あわててテラス席から店内に移った私たちは、濡れネズミにはならずに済んだもののさっきまでの止めどない会話はどこへやら、突然の迷惑な来客にすっかり空気が冷えてしまった。
それは他の客も同様だったようで、白く広々とした店内全体が、激しい雨に打たれて急にシンとなり、重い雨の足音が響いた。


そのうち、どこかのテーブルからはどっちが「雨男だ、雨女だ」などと言い合い始める声
が聞こえ、私たちも「水も滴るイイ男女だね」などとさらに寒くなるジョークも言えず、料理も来ないし、雨には降られるで、「今日はツイてない」、なんて言葉がココまで出か
かった矢先、冷めていた私たちのテーブルに、ようやく温かい食べ物がやってきた。

人というのは単純なもので、美味しくって温かいものがおなかに入ってくると、なんだか気持ちも温かくなってくるものだ。料理に舌鼓を打ちながら、にわかに暖まってきた私たちのテーブルとはウラハラに、さっきまで会話を奪うほど大声で私たちの四方を囲み、天井を打ち鳴らしていた雨音は、急速に、その勢いを失ってきていた。

おなかいっぱいになって食後の一杯を楽しみ、すっかり幸せな気分を取り戻した私たちは、
今宵に満足し、店をあとにしようとしていた。すると、入れ違いで入ってきたカップルが、私の横をすり抜け、入り口近くの席に座った。何気なくそちらに目をやると、先ほどの雨でびっしょり濡れた、男性の背中が見えた。そこには、Tシャツに 筆で大きく

「雨」

と書いてあった。

私たちは「雨」に背を向け、急ぎ足でその店をあとにした。


スタッフ IC



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